シロアリ防除剤訴訟
住友化学の特許無効
特許庁が審決
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平成6年審判第19732号 審決 兵庫県神戸市中央区加納町4丁目10番24号 兵庫県神戸市中央区海岸通6番地 建隆ビル II 5階 室田特許事務所 大阪府大阪市中央区北浜4丁目5番33号 兵庫県尼崎市南塚口町6丁目10番73号 東京都港区西新橋3丁目15番8号 西新橋中央ビル302号 吉嶺特許事務所 東京都港区西新橋3丁目15番8号 西新橋中央ビル302号 吉嶺特許事務所 東京都港区西新橋3丁目15番8号 西新橋中央ビル302号 吉嶺特許事務所 上記当事者間の特許第1191720号発明「木材保存組成物」の 結論 特許第1191720号発明の特許を無効とする。 理由 1. 手続の経緯・本件特許発明の要旨
で示される化合物を有効成分として含有することを特徴とする木材保存組成物。」 にあるものと認める。 2. 当事者の主張等 1. 請求人の主張 1本件特許発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証、甲第3号証の1、甲第4号証または甲第5号証の1、に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである(無効理由1)、若くは 2本件特許発明は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第2号証、甲第3号証の1、甲第4号証および甲第5号証の1、に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(無効理由2)から、本件特許は、特許法第123条第1項の規定により無効とされるべきものである。 2. 請求人の提示した証拠方法 甲第1号証の1:特公昭58-23201号公報 甲第1号証の2:住友化学工業株式会社からの特許公報訂正依頼に対する特許庁公報課からの確認書面 甲第2号証:「木材学会創立20周年記念特集号林産工業における研究・技術の現状と問題点」昭和50年3月20日、日本木材学会発行、21〜27頁 甲第3号証の1:NATURE,VOL.246,NOVEMBER 16,1973、P169〜170 甲第4号証:特開昭49-47531号公報 甲第5号証の1:Proceedings 7th Briitish Insecticide and Fungicide Conference(1973)、P721〜727 3. 被請求人の答弁 被請求人は、請求人の主張はいずれも理由がない旨答弁し、要約するに概略次のように述べている。 本件特許発明は、木材保存用途、特に建築材でのシロアリ、ラワン材、ナラ材でのヒラタキクイムシに代表される木材害虫の防除による木材の保存組成物として優れた特性を有するものを提供することを目的とし、従来最もよく用いられていた代表的な殺虫性化合物であるクロルデンに比してもはるかに優れた殺虫効力を示すばかりでなく、少なくとも18ヶ月にも亘る持続性を示す等卓越した効果を示すとともに、皮膚、粘膜刺激性、 カブレ等もなく、低毒性のものである。 これに対し、甲第2号証には、本件特許発明で有効成分として用いる化合物についての記載はあるが、木材害虫に対する活性について記載がないばかりか木材防除剤として有効であることについての記載ないし示唆はない。甲第3号証の1、甲第4号証、甲第5号証の1には、いずれも本件特許発明で有効成分として用いる化合物が、農業害虫、衛生害虫に対し殺虫効力を有すること、及び従来のピレスロイド系化合物に比較し光安定性に富み、哺乳類に対し低毒性であることが記載されているものの、該化合物が木材の保存剤の有効成分として有効であることは記載されていないし、これを示唆する記載もない。 そして、本件特許発明は、甲第2号証ないし甲第5号証の1の記載からは当業者が予期し得ない効果を有しており、これらの記載からその特許性が否定されるものではない。 3. 甲第2号証ないし甲第5号証の1の記載事項 〔甲第2号証〕 「木材の防腐・防虫」と題し、「4. 防虫剤」の項には、「木材を加害するおもな昆虫は、シロアリおよびヒラタキクイムシである。」(23頁左欄下から9〜8行)との記載、及び、「4. 1」〜「4. 5」の項には、防虫剤として、フェニル尿素系化合物、ピレスロイド系化合物、有機リン系化合物、フェロモン、耐蟻性成分があげられ、「4. 2 ピレスロイド系化合物」の項にはピレスロイド系化合物は、殺虫効力は強いが、 残効性および価格に問題がある。木材害虫の駆除には用いられているが、予防には 用いられにくい。最近、殺虫効力および耐光性の大きい3-フェノキシベンジル-2, 3-ジメチル-3-(2, 2-ジクロルビニル) シクロプロパンカルボキシレート 14) などが合成された。」(23頁右欄下16〜21行)と記載され、文献14)には、「M. Elliott et al. :Nature, 246,170(1973)」(26頁右欄下24行)が あげられている。 〔甲第3号証の1〕 「天然ピレスリン類」(レファレンス1、2参照)(例えば、ピレスリンI(1))及び、同系列の合成殺虫剤(アレスリン(2)、バイオアレスリン(3)、レスメスリン(4)、 バイオレスメスリン(5)、シスメスリン(6)、エタノクリサンシメート(7))は、 大気および光の中で不安定である(レファレンス1、2、4参照)。この特性のせいで、 他に有利な特性(レファレンス1-3参照)(多種の昆虫に顕著な効果を発揮し、即効性で あり、哺乳類への毒性が低いなど)を持つにもかかわらず、特に農作物の害虫に対しては使用が限定されている。そこで、ここに、従来のピレスロイドよりも10ないし100倍光に対して安定し、なおかつ、バイオレスメスリン(5)と同程度昆虫に対し活性で、哺乳動物への毒性も低い、新しい合成エステルを紹介する。」 (169頁左欄表1の上16〜4行)、「これに対して2, 2-ジクロロビニル酸を含んだ 3-フェノキシベンジルアルコール(9)は、予想を上回る効力を発揮した。それは、 例えばバイオレスメスリン(5)の家蠅に対する効力と同じくらい、またマスタードビートルに関しては、2.5倍以上も効力があった;対応する(±)-シス、 トランスエステル(11)と(4)は効力に類似の差があった。」 (169頁右欄表1の上13〜8行)、「新規エステルの光中での安定性を決定するため、 沈着物(0.2mgcm -2 )が室内の窓際で日光に晒された。こうした状況の下で、50%(ガスクロマトグラフ法により測定)の5-ベンジル-3-フリルメチルアルコールエステル(4-7)は4-6時間で失われたのに対し、3-フェノキシベンジルエステル(11)は、 3週間以上も存続した。同様の沈着物を、戸外で、雨や風からは守るが紫外線や可視光線は通す水晶板の下に置いた。このような加速テストでは、好天の際はフィルムが50℃に達するのだが、バイオレスメスリン(5)は1-2時間しか存続しなかったのに対し、3-フェノキシベンジルエステル(11)は、4日続いた。」(169頁表1の上3行〜170頁8行)、「このような高度の安定性は、害虫駆除の可能性を広げるべきであるが、新規エステルの持続性は適度であるので、毒性の残留の恐れがないという利点は保持されるべきである。加えて哺乳類に及ぼす毒性は低い(表1参照)。」(170頁12行〜15行)と記載されている。 〔甲第4号証〕 3-フェノキシベンジル-2, 2-ジメチル-3-(2, 2-ジクロルビニル)シクロプロパンカルボキシレートを含む特定のピレスロイド化合物が、殺虫組成物の有効成分として用いられること、光に対しこれまで知られている酸からのエステルよりも はるかに安定であること、該殺虫組成物は、家庭用または農業用規模で昆虫を殺滅または、制御するために使用することができ、殺虫力も優れていること、およびイエバエおよび カラシナハムシに対する殺虫特性、ねずみに対する毒性が記載されている。 〔甲第5号証の1〕 合成ピレスロイド、NRDC143[3-フェノキシベンジル(±)シス, トランス-2, 2-ジメチル-3-(2, 2-ジクロルビニル) シクロプロパンカルボキシレート ]は、従来のピレスロイドに比べ大気・光中での安定性が高く、レスメスリン等よりもイエバエ、マスタードビートルに対して殺虫効力があり、哺乳類への毒性が低いことが記載されている。 4. 当審の判断 1. 無効理由1について (1)甲第2号証に記載された発明について検討する。 甲第2号証の記載のうち「最近、殺虫効力および耐光性の大きい3-フェノキシベンジル-2, 3-ジメチル-3-(2, 2-ジクロルビニル)シクロプロパンカルボキシレートなどが合成された」については、文献が引用されており、引用さた文献14であるNature, 246,170(1973)(甲第3号証の1)には、殺虫効力および耐光性の大きい化合物として、3-フェノキシベンジル-2, 2-ジメチル-3-(2, 2-ジクロルビニル) シクロプロパンカルボキシレートが記載されているものの、3-フェノキシベンジル-2, 3-ジメチル-3-(2, 2-ジクロルビニル)シクロプロパンカルボキシレートについては記載がない。このことからすると、甲第2号証に記載された、3-フェノキシベンジル-2, 3-ジメチル-3-(2, 2-ジクロルビニル) シクロプロパンカルボキシレートは、 (2)ところで、本件特許発明は、木材保存組成物に関するものであるが、その明細書の記載からみて、本件特許発明で木材の保存がなされるのは、有効成分として含有される。
化合物によるシロアリやヒラタキクイムシ等の害虫に対する殺虫効果によるものである。 (3)また、甲第3号証の1、甲第4号証および甲第5号証の1には、パーメスリンに関する記載はあるが、この化合物を木材保存組成物の有効成分として用いることについては記載されていないから、甲第3号証の1、甲第4号証または甲第5号証の1に本件特許発明が記載されているということはできない。 (4)してみれば、本件特許発明が、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証、甲第3号証の1、甲第4号証または甲第5号証の1に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである、という請求人の主張は採用できない。 2. 無効理由2について (1)上記のように、甲第2号証には、パーメスリンを木材保存組成物の有効成分として用いたことについては記載されていないものの、該化合物が木材保存組成物の有効成分として利用し得ること、および残効性を改善し得ることについての示唆はなされている。 (2)請求人は、本件特許発明の木材組成物は、本件特許の出願当時木材害虫を防除するために最もよく用いられていた代表的な殺虫性化合物であるクロルデンに比してもはるかに優れた殺虫効力を示すばかりでなく、少なくともその18ヶ月にも亘る持続性を示す等卓越した効果を示すとともに、皮膚、粘膜刺激性、カブレ等もなく、低毒性のものであるのに対し、甲第2号証には、パーメスリンがシロアリ、ヒラタキクイムシ等の木材害虫に対する活性については何等記載されていないばかりでなく、木材害虫の防除剤として有効であることなどは記載されておらず、また、このことを示唆する記載もないこと、更に、甲第3号証の1、甲第4号証、甲第5号証の1も、これらを教えるものではない旨主張している。 (3)しかし、甲第2号証には、上記のとおりピレスロイド系化合物が、木材の害虫に対し強い殺虫効力を有することが開示され、またピレスロイド系化合物であるパーメスリンは残効性についても改善し得ることが示唆されており、更に甲第3号証の1、甲第4号証、甲第5号証の1に、農業分野についてではあるが殺虫効力、残効性、毒性について改善の程度が具体的に示されていることを考えれば、パーメスリンについて木材の害虫に対する殺虫効力、残効性等の効果を期待して具体的に試験、確認を試みることは当事者が通常行うことであって、この確認作業に何ら創意が要されたとはいえない。また、その具体的確認の結果である木材の害虫に対する殺虫効力、残効性および哺乳類に対する毒性についてみても、いずれも甲第2号証、甲第3号証の1、甲第4号証、甲第5号証の1に記載されたものから全く予期し得ないというほどのものとはいえない。 (4)してみれば、本件特許発明は、甲第2号証、甲第3号証の1、甲第4号証および甲第5号証の1に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 5. まとめ 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 平成7年10月18日 審判長: 特許庁審判官 廣田雅紀 特許庁審判官 鵜飼 健 この謄本は原本と相違しないことを認証する。 平成7年10月23日 通商産業事務官 小松 清 |